まちづくりのはての草枕

まちづくりのはての草枕

まちづくりで有名な島根県海士町で三年半ほど移住者として暮らし、

海士町やまちづくり会社の成長期から成熟期までを体感させてもらい、

今は黎明期の久米島町にいて

「移住定住推進」という全国的にも成熟期を迎える(そして衰退期を迎えつつある)

仕事を経験させてもらってきました。

また、仕事柄色んな過疎地や地方都市の

まちづくりや移住定住推進の取り組みを拝見させてもらってきました。

 

そんな中思うのが、

どこも工夫を凝らして頑張っていながらも、

頑張っている人たちとそうではない人たちとの熱量の差だったり、

頑張っている人たち同士で馬が合わず確執が生まれていたり、

一人ひとりはそれほど悪くないんだけれども

組織的なしがらみや構造的問題でやろうとしていたことが頓挫したりなど、

どこもうまく行ったりいかなかったりしながら、

もがいているんだなあ、と。

 

そしてそのもがきに関しては

努力の方向が違って思うような成果が挙がらなかったり、

方向性は良いんだけれども協力者や追随者が現れず

頓挫してしまったり、

実はけっこう成果を挙げているんだけれども

正当に評価されていなかったりと、

これまた色んな結果が生まれてきたりするわけで。

 

また、短期的に見て今は注目されているんだけれども、

数十年後から見ると大失敗とみられるようなことを

我々誰もがやっている可能性だってあるわけで。

 

子孫の為になるようなことや、

後世に恥じない行動をしようとして

一生懸命行動をした結果、

後世を人間的にダメにしてしまったり

後世に本当は残すべき資産を食いつぶしてしまったり

なんてことも、起きてるんじゃないかと。

 

むしろなんだかんだと

余計なあがきをせずに、

粛々と衰退を迎え

潔くくたばっていくことを

善しとしたほうがよいのかも、なんて

思ったりもします。

その境地は難しいけど……。

 

とにかく、短期的な成功と長期的な失敗、

本当に素晴らしいけれども評価され難い取り組みと

ハリボテの成果と華々しい評価、

人と人とのいざこざと争いと表面上の和解、

そんなものをごちゃごちゃと繰り返し

人がうごめきながら進んでいるのがまちづくりなのだなあ、と

思ったりします。

 

結局「まちづくり」という活動に対して思うのは、

夏目漱石の「草枕」の冒頭の一節。

 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣にちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。
越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容げて、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。

(中略)

世に住むこと二十年にして、住むに甲斐ある世と知った。二十五年にして明暗は表裏のごとく、日のあたる所にはきっと影がさすと悟った。三十の今日はこう思うている。――喜びの深きとき憂いいよいよ深く、楽しみの大いなるほど苦しみも大きい。これを切り放そうとすると身が持てぬ。片づけようとすれば世が立たぬ。金は大事だ、大事なものが殖えれば寝ねる間も心配だろう。恋はうれしい、嬉しい恋が積もれば、恋をせぬ昔がかえって恋しかろ。閣僚の肩は数百万人の足を支えている。背中には重い天下がおぶさっている。うまい物も食わねば惜しい。少し食えば飽き足たらぬ。存分食えばあとが不愉快だ。……

 

夏目漱石が本を書いた時代から

人の世の住みにくさが続いているのであるとすれば、

それはきっと世界の良し悪しではなく、

「世界を住みにくいと感じる」という

人間の性なのだろうと。

 

きっと人間は、

陰と陽、正と負、プラスとマイナスの世界を

どちらにいても飽き足らず、

飽き足らないからこそ動き続ける。

それが人間の業のようなものなのだと。

 

 

世界がコンクリートと廃棄物に覆われようが、

石油が燃やし尽くされ呼吸困難に陥るような日々が続こうが、

高い税金を払いながらも福祉サービスの質が低下して苦しもうが、

逆に経済的に発展して豊かな生活ができようが、

争い事無くみんな穏やかに暮らせ充実した福祉サービスを受けられようが、

僕ら人間はきっと幸福でも不幸でもあるのだろう。

 

だけど、きっとそこには、人の心を豊かにする芸術や、

人の世を長閑にするような時間があってほしくて。

 

「住みにくいなあ」と誰もが嘆く、

そんな世界のそれぞれの人の心に

ぽっと灯りを点してくれる「何か」が

いつの世にもあってほしいな、と思うわけです。

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