【BEYOND ARCHITECTURE】「半ドアライフ×都市 #02」仕事環境を外に持ち出す

【BEYOND ARCHITECTURE】「半ドアライフ×都市 #02」仕事環境を外に持ち出す

(※この記事はケンチクとカルチャーを言語化するメディア「BEYOND ARCHITECTURE」で僕が連載している記事を転載させて頂いたものです。

半ドアライフ×都市#02inside→outdoor仕事環境を外に持ち出す | BEYOND ARCHITECTURE

「アウトドア」と「インドア」をあべこべにしてみたら、どんな“ゆらぎ”を感じ、どんな発見ができるだろう? 全5回の連載、「半ドアライフ×都市」の2回目は、仕事環境を外に持ち出した実験から、アウトドアの価値を考察します。

自然の中に出て仕事をするとは、
「刻一刻と変化する環境に身を置くこと」
なのだと痛感しました。

ワーケーション、テレワークの魅力は「半ドアライフの面白み」

昨今、ワークとバケーションを組み合わせた「ワーケーション」や、遠隔で仕事をする「テレワーク」など、僻地や田舎で都会の仕事をするというコンセプトが注目されています。 試しに、ワーケーションとかテレワークというキーワードで画像検索してみると、


【出典】宮古島 | *宮古島市サテライトオフィス誘致活動サポート事業

こんなのとか、


【出典】「リモートワークなんていいことない」 Sansanが神山にサテライトオフィスを開いた狙いとその苦労とは | ハフポスト

こんなのとか、


【出典】休暇中に旅先で仕事する「ワーケーション」、JTBとスノーピークが協業で「働き方改革関連法」に対応する法人向けサービスを開始 | トラベルボイス

こんなのとか、


【出典】今話題の【ワーケーション】って?実際に体験してメリット・デメリットを検証!|ジモタツ | 株式会社ベルシステム24

こんな画像が出てきます。

素敵な自然環境で、リラックスしながら仕事をする……。憧れちゃいますよね。クリエイティブなアイデアもどんどん湧いてきそうな気がします。

こういったイメージが我々の琴線に触れるのは、ひとえに閉鎖的で殺風景になりがちな「職場」というインドアを、開放的で美しい風景が広がるアウトドアに持ち出す、「半ドアライフ的な面白み」にあるのだと思います。

「アウトドアで仕事」で生産性は高まるのか

職場環境というインドアをアウトドアに持ち出す。この「憧れ」は、本当に実現可能なのでしょうか?

インターネットさえあれば、どこでも快適に仕事できるのか、クリエイティブな仕事ができ、生産性は高まるのか。実際にここ沖縄は久米島でアウトドアで仕事をして、考えてみました。

実験内容

自然環境として普通に過ごす分には心地よい「海を見下ろす高台」やキャンプ場で仕事をしてみました。

仕事内容は、僕の当時の日常業務で、ウェブメディアの運営やイベントの企画などです。定例的なルーチンワークと頭を使うクリエイティブワーク、両方を織り交ぜて実施しました。

持っていくのは、パソコンとマウス、ポケットwi-fi。もちろん電源はないですが、接続しなくても4時間くらいは持つので、半日単位での仕事ではそれほど苦になりません。

こちらは海を見下ろす高台、「比屋定(ひやじょう)バンタ」からの風景。「バンタ」とは「崖」という意味です。屋根付きの展望台があります。

こちらは奥武島(おうじま)キャンプ場。日差しを遮るタープにハンモック、夜は焚き火ができるように焚き火台もあります。テントも張り、数日ここで寝起きしながら仕事しました(パソコンは必要に応じて職場に行き給電)。

海を見下ろす高台で仕事した結果→パソコンが壊れそう

最初は快適に海を眺めながら、「ああ、こんな環境で仕事できるなんて幸せだな……」といかにもベタなワーケーション的幸せを感じていたのですが、だんだん雲行きが怪しくなってきました。

「雲行きが怪しく」というのは、比喩ではなく。本当に、天気が悪くなってきたのです。

強風が吹き、雨がザアザアと降ってきました。

仕事をしていた展望台は屋根がついていたのですが、容赦なく雨が吹き込みます。気がついたら、あたりは真っ白。ホワイトアウト状態です。雨に濡れてパソコンも壊れそうに……。 結果、1時間くらいで撤退しました。敗北。

キャンプ場で仕事した結果→太陽と虫が邪魔をする

キャンプ場も、そもそも仕事するにいい環境ではないなと。 燦々と照りつける日光とその照り返しは、遮光性の高いタープだけでは遮りきれず、そもそもモニターが見えない……。

それでもまあなんとか仕事をするのですが、ハエやら蚊やらがたかってくるので、気が散るしかゆいしで集中できません。 集中できないので、早々と降参し、キンキンに冷えたビールを楽しむことにしました(休日に仕事してたのでセーフで)。

考察

開放感のある自然環境で、創造性を発揮し、生産性を高める。そんな理想を描いた実験は、創造性を発揮する前に挫折するという情けない結果に。さらに最後は僕の自制心の弱さが露呈してしまいました。

ここであらためて、アウトドアに仕事環境というインドアを持ち出した実験で、得られた気付きについて解説します。 ちなみに今更ですが、ここから語る「仕事」とは、頭脳労働を前提とします。

自然界は不安定な環境

自然界で仕事をするとは、どういうことか。それは、「刻一刻と変化する環境に身を置くこと」だと痛感しました。

数秒後には雨が降るかもしれないし、風が吹くかもしれない。風は吹いたら吹いたで体力を奪うこともありますが、止んだら止んだで今まで吹き飛ばされていた虫が集まってきます。 太陽の角度は常に変化し続けますので、タープを張って日光を遮れたとしても、一時間後にはタープの隙間をぬって日光に射抜かれたりもします。

このように、自然界とはまったくもって不安定な環境なのです

不安定な環境は脳のメモリを消費する

不安定な環境は、仕事をする人にとってはかなりのストレスです。なぜなら、自然界の変化に常にさらされるため、仕事に集中できない状態に置かれるからです。

「いま雨が降ったらどうしよう」という心配を常にいだきながら仕事をすることになりますし、せっかく仕事に集中できたとしても、強風が吹いたらそんな集中は文字通り吹き飛ばされます。

こんな不安定な環境下では、環境の変化に対応するために、常に「今何か起きたらどうするか」を頭の片隅で考え続けることになります。脳のメモリの一部を常に消費し続けるのです。結果、パフォーマンスは上がりません。

環境の安定化とは自然界からの遮断=インドアを目指すこと

そのため人間は、不安定な環境を避け、環境を安定化しようと努力してきました。

ほとんどの人が、野宿よりも、せめてテントの中で眠りたい、そう思いますよね。テントよりも頑丈な壁に囲まれた場所で眠りたい。壁に囲まれた場所なら、扉に鍵もついたら嬉しい。それはなぜかと言うと、より環境の安定性が増すからであり、脳のメモリを開放できるからです。

逆に言うと、インドアとは、脳のメモリを開放できる空間といえます。

都市が目指すのは「都市空間のインドア化」

ではここで、発想を都市にまで広げてみます。都市は、働く人の生産性を高めることを目指します。つまり、変動の激しい自然界から、丸ごと遮断することを目指すのです。

外気に触れるほど天候リスクが増しますので、電車は地下に潜ります。

駅から降りても、歩道に屋根が張り巡らされ、地下道が整備され、できるだけ雨の日も風の日も安定した状態を人に提供できるように環境が設計されます。

そしてほとんど、どのオフィスにも、エアコンは完備されているでしょう。

SFの世界では、都市まるごと大きなガラスに囲み、毎日安定した天候を維持している、といった光景がしばしば描かれがちですが、あのような「都市まるごとインドア化」こそが 、働く空間としての都市の目指す最終形なのではないかと思います。

インドア生活の結果、「退屈=変化への欲求」が生まれる

ただ、働き生活する空間がずっと安定する都市では、人は今度はだんだん退屈してきます。脳への刺激が足りなすぎて不満になるのです。

誰だって、山で迷子になった夜には室内に避難したいと思いますが、その室内が白一色のなにもない部屋だったらどうでしょうか? どんなに安全な空間でも、だんだん嫌気がさしてくるはずです。

北欧の国々はインテリアデザインが優れていることで有名ですが、その理由は長く暗い冬、室内にこもり続けて鬱屈した気分を晴らすため、とスウェーデンの方から聞いたことがあります。

このように、安定した状態が続くと、人は退屈し、変化を求める。最近のアウトドアブームは、そのへんに本質があるのだと思うのです。

「アウトドアで仕事」は行き過ぎ

冒頭で紹介した「アウトドアで仕事をする」といった光景に憧れる人は、「変化への欲求」が根底にあります。普段と違った、解放的な環境で仕事がしたい、と。

しかし、実際のアウトドア環境は、ちょっと変化が激しすぎるのです。ほとんどの人が創造性を発揮する前に、アウトドアからインドアに逃げ帰ってくることでしょう。僕のように……。

ワーケーション・テレワークの「ほどよい環境」

では、「ほどよい」環境では、快適に過ごし仕事に打ち込みながら、創造性や生産性が高まるという勝ち目があるのでしょうか。アウトドアで仕事するほどの、「行き過ぎ」るちょっと手前を考えてみます。

ほどよい環境は「いつでもインドアに帰ってこれるアウトドアの縁側」

頭脳労働をする場合のほどよい環境は、「いつでもインドアに帰ってこれるアウトドアの縁側」に可能性があるのではないかと思います。

たとえば、こちらは久米島のリゾートホテル、「サイプレスリゾート久米島」のカフェです。

エアコンは効いてるし、冷たいドリンクは注文できるし、日差しが眩しかったらサンシェードをおろしてくれます。 輝く海を見ながら仕事しつつ、休憩がてら外に出て散歩もできちゃいます。

つまり、ベースを安定したインドアに置きつつ、ちょっと気分転換にアウトドアに足を運べるんです。

都市に拡大すると、例えばアメリカのポートランドが例として挙げられます。ポートランドは、アメリカ中から人が集まる街として有名ですが、その魅力の一つは「都市と自然の近さ」にあります。安定して生活を営める都市に拠点を置きつつも、近くに自然があるから、天候などの条件の良いときにアウトドアを楽しめる。それが魅力だと語る人が多いのです。

アウトドア要素を取り入れたインドアの可能性

もう一つの方向性としては、アウトドア要素を取り入れたインドアです。たとえば、スノーピークが提唱する「アーバンアウトドア」といいうスタイルです。「自然と都市に境界線はない」とし、野遊びできる家をコンセプトにした暮らしを提案しています。

アーバンアウトドア | スノーピーク * Snow Peak

オフィスに観葉植物を持ち込む行為も、これに該当しますね。このような環境は仕事する上で最適な環境かもしれません。 

公園や庭園のような「疑似的アウトドア環境」をつくる

芝生や樹木が植えられた公園や庭園のような「疑似自然」をつくることも、ほどよい環境づくりには最適です。

公園で有名なのは、新宿御苑やニューヨークのセントラルパークなど。公園は常に人に快適な環境を提供することを目的とし、人の手で管理されています。

僕が以前働いていた職場のある、溜池山王のアークヒルズにも、豊かな樹木が植えられ、よく管理されていました。 都市計画において公園や庭園が重要なのは、きっと自然界を擬似的に体感させてくれる効果があるからだと思います。

しかし、それでいいのか?

ここまでの考察をまとめます。

・頭脳労働には変化の激しすぎるアウトドア環境は向かず、安定したインドア的環境が必要
・頭脳労働で経済が回る「都市」では、安定的な環境を提供するためインドア化が進む
・インドア化が進むと、人は退屈し変化を求める
・しかしシンプルにアウトドアに出ると頭脳労働には不向き

ということが実験と考察でわかりました。

対策として、

・縁側に滞在する
・アウトドア要素をインドアに取り入れる
・公園のような擬似的アウトドア環境をつくる

ということが考えられ、実際に人はそのような環境を構築しています。

さて、ここまで読んでくださった皆様は、どのような感想を持たれましたでしょうか?  僕はこの原稿を書きながら、正直、何か釈然としない気持ちでいます。「それでいいのか?」と問いかける自分がいるのです。

宮崎アニメの名作「天空の城ラピュタ」では、劇中でこのような言葉が出てきます。「人は土から離れては生きられないのよ」と。

高度な技術によって外界から離れた天空の城や、SFに登場するような透明なガラスに覆われた都市。そこまでいかなくても、擬似的な自然空間やアウトドア風のインドアが、我々の行き着く先であっていいのかそこがどうしても疑問なのです。

この疑問は、簡単に言うと「自然を人間がコントロールできる状態が理想なのか」というものです。そしてこの疑問は裏を返せば、「人間がコントロールできない自然環境に生きるのが理想なのか」という問いでもあります。

明快な答えはまだ僕の中にはありませんが、アウトドアとインドア。自然界と人間界。こういうものをあべこべにし、揺蕩いながら考えていきます。

まとめ

実験:仕事環境(インドア)を自然環境(アウトドア)に持ち出す
結果:環境の変化に適応できず挫折
考察:頭脳労働は安定的な環境を好む。自然界は不安定な環境。ゆえに自然界での頭脳労働は向かない

次の可能性:ほどよい環境を構築することで適度な刺激を獲得し、生産性を上げる
 1.「いつでもインドアに帰ってこれるアウトドアの縁側」をつくる
 2.インドアにアウトドア要素を取り入れる
 3.「疑似的アウトドア環境」をつくる

疑問:自然を人間がコントロールできる状態が理想なのか? 人間がコントロールできない自然環境に生きるのが理想なのか?

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